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Music on Internet




1.インターネットが音楽にもたらす影響
 これまで音楽をリスナーに提供する手段としては、店頭でのCD販売、テレビなどのマスメディアの活用、コンサートの開催が主なものであった。しかし、音楽をリスナーに届ける手段としての利便性とライブで活用した場合の無限の可能性を考えると、近い将来にはインターネットが音楽提供の最も有力な手段となるのではないかと考えられる。
 また、現在考えられないようなインターネットならではの音楽のあり方が今後現われてくる可能性もある。音楽の歴史を振り返ると、音楽は常に技術に触発されてそのスタイルや意味内容、表現の幅を変化させてきたのであり、現在日々変化し続けているインターネットが音楽の享受のされ方だけではなく、その表現スタイルや意味内容にも影響を与える可能性は大きい。

2.プラットフォームの普及の遅れ
 インターネットを通じた音楽の配信が一向に普及しない根本的な原因としては、特に日本においてはインターネットを通じた音楽配信のプラットフォームとなるべきパソコンの普及が遅れていることを指摘出来る。パソコン又はパソコンに代替する何らかの新たなプラットフォームが飛躍的に普及しない限り、その普及は困難であろう。
 そして、パソコンが爆発的に普及する兆候が見られない現状では、インターネットを通じた音楽配信の普及のためには、Web-TVTMなどの情報家電の急速な普及を期待すべきであろう。webTVTMのようにテレビからシームレスにインターネットにアクセス出来るディバイスが家庭に普及すれば、それがインターネットを通じた音楽配信に必要なプラットフォームを形成する可能性がある。

3.著作権法上の問題点
(1) 問題の所在
 デジタル・ネットワーク環境においては作品の複製・改変・送信が容易であることを考えると、インターネットを通じて音楽などの様々なコンテンツが提供されるようになると、作り手の著作権と経済的利益が侵害される可能性も高くなる。従って、作り手のインターネット上での権利と経済的利益をどのように保護すべきかを検討していくことが緊急の課題となっている。
 そこで、インターネット上での作品提供に関心を持つ著名な作り手・識者とインターネットを実際に活用している利用者の双方に対してアンケート形式で調査を行った。まず作り手・識者については約20名程度に対して直接質問票を送ったところ、9人から回答を得た。次にユーザについては、一昨年12月に公開質問を開始したところ、昨年10月末時点で854人から回答を得た。ここでは、この調査結果を踏まえて、インターネット上でコンテンツの作り手の権利をどのように保護することが必要であるかを検討する。

(2) 作品の送信
a.問題点
 現行著作権法は、作品を本やCDなどの媒体に複製する行為と、それを演奏・上演・放送などの様々な手段を通じて公衆に提供する行為を許諾する権限を著作権者に付与することにより、著作権者が出版社やマスメディアなどから適切な報酬を得る機会を保障している。
 これに対して、インターネット上で作品を提供する場合、作品の送信という行為が上記の二つの行為に取って変わるので、この行為を許諾する権限が必要となる。日本の著作権法では、既に「公衆送信権」が定められているが、「公衆」の範囲が不明確であるため、例えば複製権の場合のように「私的送信」といった権利制限が認められるのかどうかが曖昧である。

b.アンケート結果の分析と考察
 作り手・識者の回答結果
 利用者の回答結果
 利用者の側は、基本的には例え少数の人に対して作品を送信する場合でも作り手の許諾を得るべきであるが、私的利用のための送信については許諾を得ることは不要と考えていることがわかった。また、利用者の側が妥当と考える「私的利用」の具体的な範囲は、作り手の認識に比べてかなり広いことも明らかになった。
 しかし、デジタル形式の作品は何遍送信しても品質が全く劣化しないことを考えれば、私的利用の範囲を広くすれば広くするほど作者の得るべき利益が侵害されることとなる。このため、私的利用のための送信まで制限する必要はないものの、作者の許諾なしに行える送信の範囲は厳密に考えるべきであり、たとえ少人数であっても極力個人又は家庭での利用に制限するべきではないだろうか。

(3) 作品の複製
a.問題点
 アナログ作品の場合、複製すると作品のクオリティも劣化する。更に、現行著作権法上は私的利用のための複製などは自由とされていることもあり、作者の側としては、利用者が無断で行う複製に対して神経質になる必要はなかった。
 しかし、デジタル作品については利用者はオリジナルと同じ品質で無限に作品を複製することが可能となり、作者が本来得るべき収入が極端に減少する可能性が増大する。従って、作者の側としても特にデジタル作品の複製には神経質にならざるを得ず、デジタル環境においてはどのような複製行為が作者の許諾なしに許容されるかについて再考する必要が生じている。

b.アンケート結果の分析と考察
 作り手・識者の回答結果
 利用者の回答結果
 私的利用のための複製は自由という現行著作権法の規定のデジタル環境での妥当性について、利用者は総論としては作者の著作権を尊重すべきという姿勢を示しているが、具体的にどのようなケースが私的利用に該当するかという判断になると、作り手に比べて非常に広く考えていることが明らかになった。
 本問題については、デジタル化・ネットワーク化の特性を踏まえるべきである。 WIPOの議論などでは、複製権を巡る議論は今やRAM等への一時的蓄積も複製に含めるべきかというレベルで議論されており、これ程までに複製権の対象を拡大すべきかどうかは別にして、最低限、インターネット上では個人単位での作品の使用、即ち作品を入手した人は作り手の許諾なしに自分以外の人にその作品を使用させることは出来ないという形にすべきではないだろうか。

(4) 作品の改変
a.問題点
 現行著作権法では、第三者が無断で作り手の意に反する改変を作品に加えられない権利(同一性保持権)と、著作物を改変して新たな作品を創作する権利(翻案権)が作り手に付与されている。しかし、作品の改変が容易に行えるデジタル環境では、これらの権利が情報の加工・流通の妨げとなる可能性がある。

b. アンケート結果の分析と考察
 作り手・識者の回答結果
 利用者の回答結果
 同一性保持権及び翻案権のデジタル環境での妥当性について質問したところ、同一性保持権の扱いについては利用者の間で意見が完全に分かれており、また翻案権の扱いについては、送信や複製の場合と同様に、作り手に比べて利用者の方が改変された作品の用途についてはより自由に利用出来るべきと考えている。
 デジタル環境での同一性保持権と翻案権の扱いは非常に難しい問題であるが、まず同一性保持権については、現状では個人で楽しむだけの場合も含め改変自体が制限されることを考えると、容易に改変出来るというデジタルの特性が活用出来ないことになるので、少なくとも同一性保持権を現状のまま維持することは行き過ぎである。
 次に、翻案権の対象は改変という行為自体であり、改変の結果創作された作品(編集著作物)を他人に渡したりする行為は法律上別に扱われるが、少なくとも改変により創作された作品を作り手の許諾なしに利用出来る範囲については、送信や複製の場合と同様に個人での利用のみ自由とすべきと考えられる。

(5) インターネット上での作品へのアクセス
a.問題点
 これまでの作品流通では、作品を大量に複製して流通させていたので、現行著作権法も著作物を大量に複製して多数者に利用可能にする者の行為を著作権の対象としており、利用者がその複製物を利用する行為(本の購入やテレビの受信など)は経済的な契約の問題であるとし、著作権法は関与していない。例えば、本を盗むと、民法上の財物の占有性を根拠に泥棒として罰せられる。
 これに対し、インターネット上では第三者が対価を払うことなく作品にアクセスする可能性が非常に高いが、民法上情報の占有は認められないため、そうしたクセスを罰することは出来ない。そこで、RAM等への一時的な蓄積も複製に該当するとすることにより、インターネット上では利用者による作品へのアクセスにも著作権者の許諾権を及ぼそうとする考え方があるが、従来経済的な契約関係であった部分まで著作権法で規制することについては、意見が分かれている。

b.アンケート結果の分析と考察
 利用者の回答結果
 インターネット上での作品へのアクセス自体について作者の許諾を必要とすべきという主張をどう考えるか利用者に対して質問したところ、作品へのアクセスにも作者の許諾が必要とするのは行き過ぎとしても、何らかの形で作者の利益が守られるようにすべきという点で回答者の意見が一致している。
 利用者によるアクセス自体を著作権法が規律することには、著作権者が送信する側とアクセスする側とに対して二重に権利を行使することになるなど、問題が多いとも考えられる。また、インターネット上では作り手が様々な対価や提供条件を設定出来るようになることが期待される中で、アクセスに関する権利が設けられて出版社などがそれを保持した場合には、インターネット上でも物流と同じ画一的な対価や提供条件が適用されることになり、インターネットのメリットが大きく減少することになる。
 以上から、インターネット上における作品へのアクセスについては、まず作り手と利用者の間での直接の交渉を重んじるべきであり、作品への無断アクセスについては、著作権法上の権利の対象とするよりも、まず個別の契約と必要な技術的予防措置に委ねた上で、経済的な契約に対する競争法的な観点から対応すべきではないかと考えられる。

4.流通形態に関する考察
(1) インターネット上で実現されるべき流通形態
 現在の物流の流通形態の特徴としては、第一にCDや本などの媒体毎に別々の物流ルートと流通慣行が確立され、第二に作り手と利用者の間に様々な者が介在している結果、作品の価格や提供条件が硬直的なものとなっている。
 しかし、インターネットを活用すれば、第一に全ての作品が同じデジタル・データとして流通するので流通ルートは簡素となり、第二に作品を媒体に固定しなくていいので作り手と利用者の間に誰も介在する必要はない。ただ、編集・広告などの作業は必要となるため、結論として、インターネット上では、作品の種類(音楽、絵画等)に関係なく作り手と利用者の間に一つのデジタル作品提供会社的な組織が介在し、それが作品の企画、編集、広告及び配給などの必要な作業を全て行う形が理想的であると考えられる。なお、デジタル作品提供会社が少数しか存在しない場合にはサービス内容や料金体系が硬直的となるので、多数の会社が競争して様々なサービスや料金体系が利用可能となる中で、作り手が自分の希望に合った会社を選べることが重要である。

(2) インターネット利用の促進に必要な法律のあり方
 今後はインターネット上で様々な新しい作品形態やサービスが続々と生み出される可能性がある。それらの新しい作品形態やサービスの中には、現行の著作権法が予想していないものも出てくるであろう。
 従って、著作権法によってインターネット上でのコンテンツ流通に関する全てのルールを決めようとすべきではない。特に、インターネット上には国境というものが存在しないので、一国の著作権法で厳格なルールを定めた場合、それに不満な人は世界のどこかに必ず存在する著作権フリーな地域という逃げ道を活用するであろう。従って、著作権法上はインターネット上でのコンテンツ流通に関する大きな枠組みや考え方をシンプルに決めるだけにして、具体的に問題が生じた場合の解決に当たっては、必要な技術の開発・利用を進めるとともに、経済的な契約関係及びそれを司る民法や経済法の判断に委ねるべきである。

(3) インターネット上での著作権の集中管理の是非
 現在、音楽の分野ではJASRACに著作権が信託され、JASRACが作品利用の許諾や報酬を決定するという著作権の集中管理体制が取られている。作り手以外の者が著作権の集中管理を行うことには、権利行使(不正使用への対応など)が容易になる、著作物利用者が権利処理を行う際の煩雑な手間が簡便化されるなどのメリットがあるが、集中管理体制が望ましいかどうかについては、よく検討する必要がある。音楽の分野での集中管理体制は、仲介業務法に根拠を置く法的及び行政規制に基づくものであるが、上記のメリットと法的及び行政規制の必要性は無関係である。逆に、それらの規制は様々な弊害をもたらしている。
 音楽の分野ではJASRACだけが唯一の仲介団体である結果、競争原理が全く働かない状態になっている。その結果、著作物の新しい利用形態への対応や使用料の改訂が十分に行われておらず、またJASRACの利用者からのサービス付加要求に柔軟に対応出来る体制にもなっていない。このような状況では、インターネット上での実現が期待される自由な流通単位・価格の設定、更にはインターネットの特性を活かした様々な新しいサービスの出現は期待出来ない。
 従って、インターネット上においては作り手と利用者が直接結ばれ権利処理も比較的簡単に行えるため、集中管理の必要性自体が著しく減少することを考えると、規制に基づく集中管理体制を止め、作り手などが自ら著作権管理を行えるという自由度を持たせた上で仲介業務に競争原理を導入することにより、仲介業務を行う者の間でサービスの競争・高度化を行わせ、作り手と利用者の双方が望むサービスを得られるようにすべきである。